プロ野球「観客動員数1000万人時代」、スタジアムは、誰もが楽しめる場所と言えるでしょうか? - AMOREPACIFIC STORIES
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2026.10.15
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プロ野球「観客動員数1000万人時代」、スタジアムは、誰もが楽しめる場所と言えるでしょうか?

日常の中のDEIインサイト #4

Editor's Note


私は普段、何にでも「クエスチョンマーク(?)」を投げかけてみる方です。一度気になり始めると、広告のコピーひとつすら素通りすることができません。周りからは「考えすぎ」と言われることもありますが、そんな自分の好奇心を、私はけっこう面白がっています。

今回のコラムでは、そんなふうに日常のあちこちで見つけた小さな「問い」を出発点に思いを巡らせてみたいと思います。言葉や表現、製品やサービス、ブランドや社会にまつわる多様な事例に目を向けながら、慣れ親しんだ基準を一度違う角度から見直してみたいと思います。難しくなりすぎず、重たくなりすぎず、読み終えたあとには身の回りが少し違って見えてくるような、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の話をお届けします。

 

 

<出典:AIで生成した画像>

 

 

#INTRO

 

「十分に楽しむ」とは、どんなことなのでしょうか。
プロ野球「観客動員数1000万人時代」を迎えています。スタジアムはもはや単に試合を観戦する場にとどまらず、一緒に応援し、食べて楽しみ、思い出をつくる場所になりました。しかし、スタジアムを訪れる人が増えた分だけ、観戦を体験するあり方もまた、決して一様ではないはずです。観客が急速に増えている今、観客を迎える側の工夫もそれだけ多様になっているでしょうか。今回は、スタジアムに設けられている「センサリールーム」から、劇場の「タッチツアー」、美術館の「すべてのかばん」まで、誰もが自分なりのスタイルで文化や余暇を享受できるよう、空間と経験がどのように変わってきているのかを紐解いていきます。

 

 

<出典:AIで生成した画像>

 

 

スタジアムの歓声から、しばし離れられたら

 

スタジアムに応援歌や歓声は欠かせません。ホームランが飛び出したときに流れる音楽、目まぐるしく切り替わる大型ビジョンや照明、数万人の観客が発する騒音はすべてスタジアムの雰囲気を熱くさせます。しかし、その熱気を楽しむために、すべての観客が同じ強さの刺激に耐えられなければならないわけではありません。

 

近年、海外のスポーツスタジアムでは、観戦を諦めることなく、一時的に刺激から離れられるセンサリールーム(Sensory Room)を目にするのも、決して珍しくありません。米メジャーリーグのカンザスシティ・ロイヤルズ(米国カンザスシティを本拠地とするプロ野球チーム)の本拠地には、2カ所のセンサリールームと8カ所の休憩スペースが設けられています。観客は必要に応じて、ノイズキャンセリングヘッドホンやフィジェットトイ(fidget toy、手で触ったりして緊張を和らげ、集中を助ける玩具)、重みのあるラップパッド(lap pad)、コミュニケーション支援カードなどが入ったセンサリーバッグを借りることができます。

 

2025年には、ミネソタ・ツインズ(米国ミネアポリス‐セントポールを本拠地とするプロ野球チーム)が、スプリングトレーニングの拠点であるリー・ヘルス・スポーツ・コンプレックスにニューロダイバージェントに配慮したセンサリールームを新設しました。レギュラーシーズンの本拠地であるターゲット・フィールドにもセンサリールームが設けられており、スタジアムを眺めながら刺激を調整できる専用の屋外スペースも用意されています。こうしたスペースがあれば、観客は試合の途中でいったん静かな場所へ移動して再び客席に戻ることも、ヘッドホンを着けたまま観戦することもできます。「野球を楽しむなら、このくらいの騒音には耐えなければならない」という一つの観戦スタイルだけを強いるのではなく、一人ひとりが自分の感覚に合った方法を選べるようになっているのです。

 

 

<視覚障害のある観客が舞台デザインを手で触れて確認できるよう、演劇『20世紀ブルース』の実際の舞台を縮小して制作した模型>出典:斗山アートセンター

 

 

舞台は、必ずしも目だけで観るものなのでしょうか?

 

スタジアムのセンサリールームが「どこで観戦するか」という選択肢を広げる試みだとすれば、劇場のアクセシビリティサービスは、「どの感覚で鑑賞するか」という問いを投げかけます。私たちがごく自然に「観る」と表現してきた舞台芸術は、果たして目だけで体験するものなのでしょうか。演劇を鑑賞するとき、観客はセリフだけでなく、舞台の大きさや構造、俳優の動き、照明、衣装、小道具など、数多くの視覚情報を同時に受け取っています。特別な説明がなくとも、舞台上の場面を目にするだけで自然と理解できる情報は決して少なくありません。しかし、舞台が視覚情報だけを提供するなら、視覚障害のある観客が得られる情報には、どうしても差が生まれてしまいます。

 

斗山アートセンターでは、一部の公演で視覚障害のある観客を対象としたタッチツアーを実施しています。タッチツアーとは、公演前に観客が舞台模型やセット、小道具、衣装などに実際に触れながら、作品の空間や視覚情報をあらかじめ理解できるようにする取り組みです。演目に応じて、実際の舞台や、別途制作した舞台模型、小道具などが使われることもあります。タッチツアーのほかにも、公演に合わせて事前の音声案内、字幕による解説、手話通訳、歩行サポートなど、さまざまなアクセシビリティサービスが提供されています。

 

私たちはこれまで、公演を「観る」と表現してきました。しかし、舞台を体験する方法が、一つの感覚だけに限られる必要はありません。タッチツアーは、私たちが当然のように考えてきた「鑑賞」の意味をさらに広げ、同じ作品でも異なる感覚を通して体験できる場をつくるために、どのような工夫が必要なのかを考えるきっかけを与えてくれます。

 

 

<「すべてのかばん(Modeun Gabang)」のイメージ>出典:ソウル市立美術館

 

 

「センサリーバッグ」から、皆のための鑑賞ツールへ

 

ソウル市立美術館は2025年、障害のある人とない人が一緒に館内を巡りながら、鑑賞において直面する不便さを実際に確かめていく「インクルーシブ・プロジェクト(Inclusive Project)」を実施しました。作品を鑑賞する瞬間だけでなく、展示室で展示ルートを確かめたり、作品を理解したり、必要なサポートを求めたりするプロセスまで細やかに見つめ直しました。参加者が7回にわたってアイデアを出し合い、話し合いを重ねた末に生まれたのが、「すべてのかばん(Modeun Gabang)」でした。バッグの中には、美術館をより快適に利用するためのさまざまなツールが入っています。展示空間の感覚的な特徴を事前に確認できるセンサリーマップ、作品をわかりやすく理解するための解説、言葉で助けを求めることが難しいときに提示できるコミュニケーションカードなどです。大きな騒音を和らげるヘッドセットや、手で触って緊張を和らげたり集中を助けたりするフィジェットキーホルダーも含まれています。それぞれのアイテムは、必要に応じて単独でも組み合わせても使えるよう、互いに補い合う形で設計されています。

 

ソウル市立美術館は2025年9月、このバッグを常設の貸出用鑑賞ツールとして正式に導入しました。障害のある人だけでなく、高齢者や乳幼児など、さまざまな来館者がより心地よく館内を利用できるよう、アクセシビリティサービスも提供しています。「すべてのかばん」で特に注目したいのは、美術館側が必要なツールを一方的に決めたのではなく、実際の来館者を設計段階の参加者として迎え入れた点です。利用者を単なる支援の対象としてではなく、ともに答えをつくる主体として捉えたという意味で、当事者とともに設計するコ・デザイン(Co-design)が文化施設において実現された事例といえるでしょう。

 

「すべてのかばん」という名前は、単に誰でも借りられるという意味だけではないのかもしれません。特定の人が感じていた不便から始まった変化が、結果としてより多くの人にとって便利な選択肢になることもあるということ。もしかすると「皆のためのデザイン」とは、誰もに共通するものを探すことではなく、これまで見過ごされてきた違いに気づくことから始まるのかもしれません。

 

 

#OUTRO

 

観客の数だけ、楽しみ方の選択肢も広がっていくように
プロ野球の観客数が1000万人を超えたということは、野球を楽しむ人が増えたというだけでなく、スタジアムへと足を運ぶ人々の顔ぶれやニーズもまた、それだけ多様になったことを物語っています。今こそ、観客数の拡大とともに、参加の選択肢を広げることにも目を向けるときです。今度スタジアムや劇場、美術館など、多くの人々が集まる場所に足を運ぶ機会があれば、ふと周囲を見渡してみてください。そこには、どれだけ多様な「楽しみ方」が用意されているでしょうか。

 

 

 

 

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