AMOREPACIFIC STORIES X 作家・イム・ジョンジュ
日常にふと訪れるささやかな休息は、心と身体のバランスを取り戻すウェルネスの第一歩です。AMOREPACIFIC STORIESのメインページでは、毎月新しい作家とともに、一つの作品から生まれる安らぎと美のひとときに光を当てています。作品と、そこに込められた物語に触れるひととき、日常のスピードをしばし緩め、自分らしいウェルネスライフのためのインスピレーションをチャージしてみてください。

#Theme
作家・イム・ジョンジュの香合は、木が本来持つ性質や割れる方向をありのまま生かしながら仕上げた作品です。素材が持つ本来の姿を受け入れるその姿勢は、私たち自身をありのままに認め、受け止める生き方とも重なるのではないでしょうか。木目一つひとつを生かして作り上げた香合とともに、ありのままの姿が持つ大切さに気づかされる、日常の中のウェルネスのひとときへと浸ってみてください。
#Artist
こんにちは。木を主な素材に造形作業を行っている作家、イム・ジョンジュです。木が持つ自然な形や木目をそのまま作品に込め、日用品と木そのものの美しさを自分なりの方法で新たに結びつける作業を行っています。現在は、自ら運営するセレクトショップ「Not For Sale」を通じて、さまざまな素材の特性を生かしたアイテムを制作し、紹介しています。
#Artist Interview
Q. 今回のコラボレーションで制作された作品について教えてください。
香りを納める器である香合(Incense Case)です。木が育ってきた環境によって生じる割れを、あえて加工せず、ありのままに落とし込みました。これまでは、木という素材を使って自分の思い描く形をつくることもありましたが、「Flow」シリーズと名付けた一連の作業では、木が本来持つ性質や形をありのまま受け入れています。木がどのような環境で育ってきたかによって割れの走る向きや変わるテクスチャーそのものが、作品の重要な要素になります。

Q. 木をありのまま受け入れる制作方法が印象的です。
はい。今回の作業では、木が育ってきた環境や、素材本来の個性をそのまま映し出したいと思いました。 人は往々にして、自らが主体となって自然を自分の意思や必要に応じて扱うものだと考えがちですが、実は自然を前にすると、人間なんて極めて無力な存在なのかもしれないと、最近よく考えています。自然をありのまま受け入れ、謙虚に受け止めることもまた、自然を楽しむ一つのあり方ではないかと思います。
Q. これまでの制作において、木と向き合う姿勢に何か変化はありましたか。
以前は、まず造形としての形を考え、それに合わせて木を加工するという順序で作業を行っていましたが、今は、まず木そのものを見つめます。木が持つ固有の個性を見極め、それに合う製品や形を考えるわけです。簡単に言えば、前後の順序が変わったと言えるかもしれません。木が本来持つ性質をより深く理解したうえで、それを土台に自分の考えを表現しようとしています。

Q. 今回の作品のように、対象の形をありのまま受け入れる姿勢は、作家ご自身の日常にもつながっているのでしょうか。イム・ジョンジュさんにとって「良き日常」とは、どのようなものですか。
日常においても、特別な何かを無理に作り出して楽しもうとするより、目の前にある何気ない瞬間をありがたく受け止める方です。何事も起きない平凡な日常こそが、実は一番尊いものなんだと感じます(笑)。朝、何事もなく目を覚まし、家族と一緒に朝を迎え、一杯のコーヒーを淹れて飲み、無事な一日を過ごすこと。そんな日々の一つひとつを大切にしたいと思っています。
Q. では、ご自身が考える「良きもの」とは何でしょうか。
長くそばに置いて使い続けられるものこそが「良きもの」だと思います。本当に多くのものが手軽に手に入る世の中に生きていますが、その年だけで使わなくなってしまうものもあれば、何年にも渡って愛着を持って使い続けるものもありますよね。そうしたものにはどうしても、長い時間をともに過ごすうちに、一緒に重ねてきた歳月や習慣までもが刻まれていく気がします。時が積み重なるほどに、ものとの関係も深まっていくというわけですね。

Q. 普段どのようなときに香を焚かれるのでしょうか。
まず、アトリエでは埃や木くずが入り混じり、独特のこもった匂いがすることがあります。そんなときは、匂いを消すために香を焚いたりします。また、作業に没頭していると気持ちがはやることもありますが、立ち止まりが必要な瞬間に香を焚くと、しばらく呼吸を整えて心を落ち着かせることができる気がします。家でもよくインセンスを焚きます。毎朝コーヒーを飲むのが私の日課なのですが、余裕のある日は、コーヒーと一緒に香を焚くこともあります。香りには、平凡な休息のひとときをもう少し深く豊かなものにしてくれる力があるようです。同じ休息でも香りが加われば、しばし日常から離れて完全に自分自身に集中する時間になるような気がします。

Q. 今回の香合を通して、日常の中にどのようなウェルネスのひとときを届けたいと思われましたか。
韓国で暮らしていていつも感じることの一つなのですが、とりわけ忙しくもないのに、常に何かに追われるようなせわしさを感じてしまう時があります。だからこそ、何もしないままふと立ち止まる時間がとても大切に感じられることがあるんです。今回の作品が香合であるだけに、読者の皆さんに「ゆとり」という価値を届けたいと思いました。香合には、香を焚く前に少し待って準備をする時間も含まれていますよね。ほんの少しでも呼吸を整え、自分だけの時間を感じていただければと思います。
Q. 日々のウェルネスのために、ご自身が取り入れているルーティンはありますか。
最近、自分が音にとても敏感だということに気づきました。のこぎりを使うこともあるアトリエでは、一日中大きな音に囲まれているので、むしろ自分は音には鈍感な方だと思っていたんですが、実際には日常の中で思いがけない音にストレスを感じていたのですね。そのため最近は、どこにいても音楽を流したり、周囲に邪魔されず集中できるようにノイズキャンセリングイヤホンを使ったりしています。没入できる静寂の時間がかけがえのないものでもありますし、少しの間周囲の音を遮って、自分に必要なことだけに集中するだけでも、気持ちがずいぶん楽になります。私にとって、こうして周囲のノイズを減らし、完全に集中できる時間をつくることが、日々のリズムを整えるささやかなルーティンになっています。

Q. ご自身の考える「自分らしい美しさ(New Beauty)」とは何でしょうか。
また、そうした考えが作業にどのような影響を与えているのかも伺いたいです。
忙しい現代社会を慌ただしく生きていると、どうしても他人の目を気にしてしまいがちですよね。重要な場面でも、自分自身より先に他人の基準を気にしてしまうことがあります。でも、そんなときこそ自分自身を見つけることが必要なのだと思います。自分がどんな人なのかを知りながら、自分らしさを見つけていくことが重要なのではないでしょうか。
今回の作品も、そうした想いから始まりました。木が本来持つ姿と自分の考えが重なり合う地点で新しい形を探っていくように、一人ひとりが自分らしさを見つけていく歩みそのものが、私の考える「自分らしい美しさ」です。
Q. 最後に、今回の作品を通して、人々が日々の暮らしの中で新たに見つけてほしい美しさはありますか。
身の回りにあるものを、ほんの少し丁寧に見つめることで、新しい美しさに気づけると思います。木が育ってきた環境によってそれぞれ異なる方向に割れていくように、私たちの身の回りにあるものや日常にもそれぞれの物語や時間、痕跡が積み重なるわけです。今回の作品をきっかけに、身近にあるものを改めて見つめ直し、何気なく通り過ぎていた日々の中に隠れているそれぞれの固有の美しさを見つけていただければと思います。
イム・ジョンジュさんが手掛けた香合作品の画像をぜひお手元に。
*本画像は個人使用の目的に限りご使用いただけます。営利目的での利用は固くお断りいたします。
About the Artist
イム・ジョンジュ(Jungjoo Im)は、木を主な素材として造形活動を展開するアーティスト。ロンドンのCentral Saint Martinsでプロダクトデザインを学び、2018年の初の個展を機に本格的な作家活動を開始した。形や機能、そして人間がモノをどのように認識するかという観察をもとに造形的実験を重ね、展示にとどまらず、ミュージアムやホテル、百貨店など、さまざまな空間やブランドとのコラボレーションも積極的に行っている。
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